『砂の世界で』

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終末の始まり


『砂の世界で』

 第一章 終末の始まり

   「ねぇ、明日香。早く行こうよ」
   「ちょっと待ってよ、お兄ちゃん」
   「遅いよー! 先行ってるからねー!」
  僕は玄関のドアを開けて、外に走り出した。
   「待って! お兄ちゃん!」
  家の中でまだぐずぐずしている妹の明日香のことを放って、家の前にある公園に向かって走り出した。
  家と公園は道路を挟んで向かい側にある。
  毎日のように行っている場所だった。
  車が来ないのを確認して、道路を走りながら渡る。
   「お兄ちゃん!」
  明日香の声が聞こえたが気に留めなかった。
  明日香といつも遊んでいる公園の砂場で、いつものように砂の城を作り始めた。
   その時、後ろでキキーッという甲高いブレーキ音と、ドンという鈍い音が響いた。
  地面を揺らすかのように大きく鈍い音だった。
  何……今の?
  後ろを振り返ると、電信柱に車が突っ込んでいた。
  白いセダンはボンネットがグシャグシャになり、フロントガラスも割れている。
  僕は気づいた。車のボンネットの上に、赤い何かがべっとりと付着していた。
  これは……血?
  思わず車に駆け寄った。
  車の運転席から男が出てきた。
  「クソッ! 轢いちまったか……!」
  運転手だと思われる男は、鉄の骸と化した車を拳で叩いた。
  僕の目線は男から自然に男の足元――車の下に移った。
  足が、車の下から飛び出していた。
  可愛らしいピンクの靴下……明日香が気に入っていた靴下……。
  もしかして……。
  車の下を意を決して覗き込んだ。
   「あ……明日香……」
  明日香がいた。
  足が片方なく、体中が鮮血で染まっていた。眼は白眼を剥き、足は左足が完全に原型をとどめない状態であった。
   「起きて……起きてよ明日香……」
  気絶してるだけだと思いたかった。
  ショックで少し寝てるだけだ……すぐにまた目を開けてくれる……。
  だが、その願いは意味のないものであることは、六歳の僕でもすぐにわかった。
  もう明日香は、二度と……。
   「死んじゃ……死んじゃ嫌だぁ! 明日香!」


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